2022年4月1日、コロナショック以降はじめて、長短金利差(10年債利回り-2年債利回り)が-0.06と「0」以下になりました。
ここ数十年、長短金利差がマイナスになった後にリセッションが起こることから、投資家たちは「リセッションの前兆か」と警戒しています。
\この記事でわかること/
✓ 「長短金利差」と「リセッション」の関係(長短金利差に注目する理由)
✓ 「長短金利差」どのデータを使うか
✓ 「長短金利差0」「リセッション」「下落相場」のタイミング
長短金利差とリセッション(景気後退)の関係
「長短金利差」とは、「長期金利から短期金利を引いたもの」です。
※この記事では、「金利」と「利回り」を同じ意味で使っています。
リセッション(景気後退)= 下落相場 ではない
皆さんご存じのことだと思いますが、恥ずかしながら私自身が勘違いしていたので最初に書かせていただきます。
「リセッション」という言葉は、「下落相場(ベアマーケット)」を指しているわけではありません。
リセッション(景気後退)とは、景気循環の波動の中で、景気の良い状態(景気の山)から悪い状態(景気の谷)へ下降していく局面のことです。
実質GDP、鉱工業生産、実質個人所得、雇用などをもとに経済活動全般について下落の判断をしており、金融相場の状態は加味されません。
株価の暴落とリセッションは同時期に起きることが多いですが、混同しないようにしてください。
長短金利差0はリセッション(景気後退)のシグナル!?
米国債の長短金利差が注目されるようになったのは、現デューク大学教授でNBER研究員でもあるキャンベル・ハーベイ(Campbell Harvey)が1986年に発表した博士論文です。
この論文で、ハーベイは「金利の期間構造(長短金利差)が米国の景気循環を予測できる」という概念を示しました。
短期金利が長期金利よりも高い(長短金利差がマイナス、逆イールドカーブとも言う)場合、その後リセッションが起こるというものです。
論文が発表された1986年以降、長短金利差がマイナスになる現象は4回発生し、その度に1990~1991年、2001年、2007~2009年、2020年と4回のリセッションが起こりました。
(下図のグレーの網掛け部分がリセッション)
このように、長短金利差がマイナスになると、その後ほぼ確実にリセッション入りしていることから、ウォール街では鬼門とされています。
長短金利差、どのデータを使う?
長短金利差がマイナスになると、リセッションが起こるかもしれない…いうのはお分かりいただけたと思います。
慎重な方は、こまめに長短金利差をチェックしようと思うかもしれません。
そこで起こるのが、「長期金利と短期金利、どのデータを使えばいいの?」問題。
米国債には1カ月物から30年物までさまざまな種類があり、「長期」「短期」といっても人によって思い浮かぶ期間は異なります。
よく使用される「長短金利差」は2種類
よく使われているのは上記2つです。
多くの市場参加者は、今回マイナスとなった「10年債利回り-2年債利回り」に注目しています。
2年債利回りがFRBの政策を適切に反映していると考えているためだと思われます。
一方、研究論文では「10年債利回り-3カ月物利回り」が用いられることが多いです。
2つをくらべてみましょう。
「10年債-3カ月物」のほうが動きが激しいという特徴はありますが、多少の時間差はあるものの、どちらもリセッション前にはマイナスになっていることがわかります。
リセッションのシグナルとしては、どちらを使っても問題なさそうです。
ちなみに、ハーベイ教授の最近の論文では「5年債利回り-3カ月物利回り」が使用されてるみたいだよ。
FRBは「18ヶ月物利回り-3ヶ月物利回り」に注目
FRBは、市場が注目している「10年債利回り-2年債利回り」よりも、「18カ月物利回り-3カ月物利回り」のほうが、先行きの景気悪化を予想する精度が高いと考えているそうです。
これがマイナスになれば、景気悪化のリスクが高まったとして、利下げなど金融政策の転換を考えるサインとなるとのこと。
「長短金利差0」「リセッション」「下落相場」のタイミング
ここからは、金利のデータが取得できた直近6回のリセッションについてみていきましょう。
長短金利差0になってからリセッション入りまでの期間
下の図を見ていただくと分かる通り、長短金利差がマイナスになってもすぐにリセッション入りするわけではなく、ある程度のタイムラグがあります。
前のリセッション終了後、長短金利差が(1日でも)マイナスになった日から次のリセッション入りまでの期間を調べてみると、以下のようになりました。
「10年債-2年債」では平均18.3ヶ月、「10年債-3カ月物」では平均20ヶ月の期間があります。
つまり、長短金利差がマイナスになってからリセッション入りまで、平均1年半ほどの猶予があるということです。
株価のピークはリセッションの2~3ヶ月前?
次に、長短金利差がマイナスになって(シグナルが点灯して)からリセッション入りするまでの間で、S&P500とNASDAQの両指数がピークをつけた月を調べました。
この表から、S&P500もNASDAQも、リセッション入りする平均2~3ヶ月前にピークをつけていることがわかります。
つまり、リセッション入りした時点で、すでに下落相場は始まっているということですね。
2020年2月のコロナショックは、下げと言えるほどの下げもなくリセッション入りし、リセッション中に両指数ともピークをつけ、その後大きく下落しました。
先ほどのデータと合わせると、長短金利差がマイナスになった後、相場がピークをつけるのはかなり先になります(平均1年3ヶ月程度)。
長短金利差がマイナスになったからといって焦って「全売り」する必要はなく、その後も逃げるチャンスはまだまだあるということです。
もちろん、引っ張りすぎると「すでにリセッション入りしてた?」ということになりかねないので、いつでも降りられるような心構えでいましょう。
まとめ
2022年4月の段階で「10年債-2年債」はマイナス圏に突入しましたが、「10年債-3カ月物」の金利差は拡大しています。
長短金利差がこれからどのように推移していくのか、今回もリセッション入りするのか、大注目です。
コメント